DESIGN Koishikawa

芦沢が出会った築50年超えのオフィスビルは、エリアの再開発が進む中で2年後の解体を控え、テナントの半数以上が撤退した状態だった。しかし、3面から外光を浴びるコンクリートスケルトンの空間に可能性を感じ、失われる場から未来をデザインする試みに活用したいとの思いで末短期賃貸契約を締結し、「DESIGN小石川」と命名。世界各国のアーティストやデザイナーがイベントやエキシビション、ワークショップを開催するギャラリーと、家具や生活関連のアイテムを扱う「TAIYOU no SHITA」を併設。さらにマーケットプレイス機能を実装し、着生蘭を専門に取り扱う植物店「B.U.D」や厳選された食材を取り扱う「PLAIN COMPANY」、地元商店主によるウィークエンドマーケットや夏祭りなどに場を提供した。事務所のアネックスをゲストハウスとし、アーティストレジデンスプロジェクトさながらに世界各国からアーティストやデザイナーを迎えた。
多彩に展開する中で、芦沢自身もイベントを主催。2016年「HIGHLIGHT」、2017年「GRAVITY」、2018年「Architect meets karimoku」を手掛けた。「HIGHLIGHT」では、まさに現代のハイライトというべきデザイナーやアーティストをキュレーションし、大量消費社会と一線を画すメッセージを内包したアートやプロダクトを展示。さらに東京デザインウィーク期間中には小石川とエッジの効いたデザインとの融合や、「TAIYOU no SHITA」や小石川町内のショップ、石巻工房ショールームを巻き込んだエキシビションにつなげるなど、東京の「HIGHLIGHT」ともいえる展開を示した。「GRAVITY」はピンク・フロイドとの協働や、ケルン・メディア芸術大学の学長だった功績でも知られるアンソニー・ムーア氏と共催。 “gravity waves” をテーマとするサウンドインスタレーションと、7組のデザイナーによる軽やかな重力を感じるプロダクトの展示を行った。「Architect meets karimoku」は、「家具は、空間のために設計されるべきではないか」という問いを発端に、芦沢啓治とトラフ建築設計事務所、NORM ARCHITECTSが共催。日本最大の木製家具メーカー「カリモク」をパートナーに迎え、空間と家具デザインのあり方を模索した。展示用の作品づくりにとどまらず、生産・販売体制の構築を見据えたプロセスやダイアローグを作品とする実験的な試みだった。
さまざま展開しながら、2018年に2年の活動に幕を降した「DESIGN小石川」。失われる場から未来をデザインするアプローチは、いくつかの可能性を指し示しながら、期待を超える成果を記録できたのではないかと感じている。