ミラノサローネ2015雑感
ミラノからの帰りの飛行機である。少し多めにワインを飲んだので書き始めてみる。スケッチをするには頭のシャープさに欠けるし、小さな画面で映画をみるのも魅力がかける。ふと何か書いてみたいと思った。不思議である。数ヶ月書いてこなっかたのに湧き出るように書きたいことが出てきた。長女が中学生になったこと。ミラノサローネのこと。石巻工房のこと。建築のこと。家族のこと。家具のデザインのこと。友達のこと。これからの人生。。いや少なくとも今年考えるべきこと。ミラノからの帰りの飛行機だからミラノサローネについて書くのがいいだろう。ミラノサローネが一体僕にとって何なのか、そこはどんな場所なのか、一般的な話としてではなく個人的な経験として書いて見たい。
ミラノサローネとの出会いがなければ、僕は家具やプロダクトの世界で仕事をするようにはならなかったはずだ。これは僕だけではない。多くのデザイナーがミラノサローネによって育てられたと思う。だからどんなに忙しくても、お金がなくても、仕事しているクライアントに申し訳ないと思いつつも、僕はミラノに通うと決めた。最初は訳も分からず、そしてある部分コンプレックスを払拭するために、そして今は自分が向かうべき方向をアジャストするために来ている。結局3回自ら展示をして、何回か売り込みなんかもやってみて(うまくいかなったけど。。)最近ではデザイナーとしてのミーティングのスケジュールを入れることも増えてきた。去年からは石巻工房のトップとしての打ち合わせもする。少しずつだけど傍観者からプレーヤーに昇格したということだろう。未だに苦労している言葉もちょっとずつだけどなんとかなるようになってきた。実は伝えられる、聞き取れる以上に、立ち振る舞いが重要であることがここ数年でわかったことだ。これは言葉のスキルだけでは解決できない。40過ぎてこんな大事ことにようやく気がついた。
ミラノサローネ-多くのメーカー新作を発表する。同時に素晴らしいインスタレーションを経験する機会がある。これは本当だ。それらはもちろん素晴らしいが、僕は会いたい人に会えるということがもっと素晴らしいことだ思った。
ミラノではとにかく人にあう。食事をする。ビールやワインを飲みながら話す、聞く、そして考える。実際多くのデザインや空間を体験すること、ビジネスミーティングと同じくらいそこでの会話は重要だと思っている。その場で膝をうつような啓示を受けるようなこともゼロではないが、通常はここでの経験を消化するには時間がかかる。すなわち今もなんとなく考えている。書きながら考えている。なぜミラノの夜の会話が素晴らしいのか。多くの素晴らしい空間やデザインの体験とそうした会話がセットとなっていることが鍵である。同じ場所を旅行したもの同士思い出話に花が咲くように、会話は尽きない。そこからグッと深いところまで話し込むこともある。みな興奮状態であると言っていいと思う。ゆえに発せられる言葉には淀みがない。本音が飛び交う。
ディナーでは話たらずBar Basso に行く人も多い。朝まで飲めるとにかくデザイナーが集まるバーである。あれ程の人が集まっているのにクレームはない。これはミラノ、あるいはイタリアの懐の深さだろう。ミラノサローネの成功には幾つかの理由があると思うがイタリアの懐の深さとは関係があると思っている。(長いこと景気がわるいことも。)
bar bassoについて話を戻す。どこから湧いてきたのかと思うほどデザイナーやデザイン関係者が集まる。一流の国内外のデザイナーがいることで有名な場所だが、ビールを2本抱えた社交のプロの役割も見逃せない。おかげでなかなか帰れない。朝は時差ぼけで6時起きなのに2時、3時まで飲む。歩いて5分のところに宿があることを今回は恨んだ。2日通って身の危険を感じたので僕はそれ以上はいかなかったが。。何人かのデザイナーから毎日通ったという話を聞いた。合言葉「bar bassoで会おう」-しかしながら約束したデザイナーには会えない。そこに彼、彼らがバーにいるのかいないのかわからないが、実は問題にならない。とにかく会うべき人たちがそこに山ほどいるからだ。今回は初めてそこで出会って結婚したという話も聞いた。
バルバッソであう人達も含め、ミラノでしか会えない人が沢山いる。不思議なことにミラノに来ている日本人も含めだ。いや世界一周券を持ち会いに行けばいいかもしれないが、ミラノでは勝手に集まっているから、偶然会う。後ろから声をかけられることもある。世界一周券であれば一月はかかりそうな出会いが3、4日に凝縮されている。
最後にビジネスの側面で話す。この期間中にプレゼンをメーカーにしている人たちが結構いる。僕の場合あまり上手くいかなかったけれど、逆の立場から言うとメールで送られてくるよりは効果があると思う。メーカーのトップがミラノには来るので上手くアポが取れればそれもありだ。同時にメーカー側からアポを取ってくる場合がある。ミラノに来ているのであれば打ち合わせしないかと。このあたりはトップデザイナーになればますます可能性が増えていくのだと思う。
だからミラノサローネでは出会いが重要だなんてありきたりの結論ではあるけれど、本当のことだから仕方がない。特に日本から行く場合時差ぼけとの戦いもあり思った以上に体力の消耗は激しい。そして当然のこととして外国語を喋れればより可能性は拡がる。デザイナーであればこれぞという案を握りしめて。。
今、日本海上空である。あと1時間で日本に着く。昨日のディナーは昨年石巻工房の展示でお世話になったSCP-ロンドンの家具メーカーのオーナー、シェリダンさんに誘ってもらった。30回目のミラノだと言っていた。僕は8回目。また来年も来るのだと思う。